生物科学コース

生物科学コースの特色

教育の理念

生物科学の研究とその方法は近年大きく変わりつつあります。一つは生命科学の分野で、分子レベルの現象の理解や研究技法が飛躍的に発展していること、もう一つは生物の多様性や生態を研究する分野で、理論的発展が大きく進んだことです。これらの進展は互いに影響しながら進んでいます。この新しい流れをふまえ、生物科学コースでは、生物科学の基礎から最先端にわたる講義・演習・実験・実習を用意しています。生物科学コースでは、学生のみなさんに、基礎生命科学・多様性生物学の両方の分野の内容を深く、なおかつバランスよく学修してもらうことを目指します。生命現象の根底にある遺伝情報の発現と制御、発生のしくみ、細胞の多様な能力、生命の進化、生物と環境との関わりなどについて十分に理解してもらうこと、そして研究や実社会で必要になる、未解決の問題を解き明かしていける基礎能力を身につけてもらうことがコースの目標です。

教育内容の特徴

  • 分子生物学・細胞生物学・発生生物学などの基礎生命科学分野、系統学・分類学・生態学・進化学などの多様性生物学分野の両方の内容をバランスよく学べます。4年間の課程で生物科学のしっかりした基本的専門知識と技術を修得できます。
  • 実験・実習・卒業研究のような、体験して身につける知識や技術に重点をおいていることも、カリキュラムの特色です。
  • 1、2年次に理学の基礎となる基礎科目群を学び、2年次以降はより高度で専門的な標準・発展科目を中心に学修します。
  • 卒業研究:3年次後期に配属研究室を決定します。4年次には指導教員の研究分野に関連するテーマを一つ選び、専門的な研究と学修を行います。みなさん自身で実験や調査を計画・実行し、文献を調べ、問題を解決していくことになります。
生物科学コース修了者の進路

本コースで学んだ学生には、生命科学研究(技術者・研究者)、バイオ関連企業(製薬、食品、検査試薬・機器、臨床検査など)、環境アセスメント(公立、民間)、理系教員(中学、高校)、技術系公務員などへの道が開かれています。就職に有利になる関連資格の取得もサポートします。また、大学院(博士前期・後期課程)へ進学し、さらに専門性を高めることもできます。

研究室での研究内容

基礎生命科学分野

生命現象を理解するための基礎となる、遺伝学、分子生物学、生理学、細胞生物学、発生生物学などの研究を行っています。

分子レベルの研究

遺伝物質であるDNAについて、放射線等により損傷を受けた場合、どのように修復されるのか、さらにこれらが完全でない場合に誘発される突然変異などについて、培養細胞を使って分子レベルから研究しています。

細胞レベルの研究

DNAとタンパク質が結合した染色体について、その行動を調べています。生命の基本単位である細胞レベルでは、動原体と細胞分裂、老化やがん化などに関する研究を行っています。

個体レベルの研究

ショウジョウバエを使って、発生過程で働いている遺伝子の機能や神経回路の形成機構 について研究しています。カイコやカメムシなどを使い、細胞分裂において染色体分配時に働く遺伝子の機能や進化、模様や体色形成に関わる遺伝子について研究しています。またマウスを用い、放射線などによる個体への影響を調べています。

多様性生物学分野

個体以上のレベルの現象を対象に、生態学、系統学、分類学、進化学について、以下のような内容の研究を行っています。

個体を対象にした研究

植物の形態と機能との関連、地球環境変化が個体の成長と繁殖に及ぼす影響の研究。

集団や種を対象にする研究

形態に基づく生物の分類、形態や遺伝子情報による系統関係の推定や形質の進化の解析。水生生物個体群の動態解析。DNAマーカーによる社会性昆虫の血縁解析や集団の遺伝解析。植物と訪花昆虫・昆虫と共生微生物のような生物の種間関係の研究。人為選択が植物に与えた影響の研究。

群集・生態系レベルの研究

野外の動植物群集の組成・多様性の調査とこれらに影響する要因の解析。外来動植物の動態と影響評価、里山林や湖沼の保全・再生、植物群集に対する地球環境変化の影響の研究。

携帯型赤外線ガス分析機を用いた
植物の葉の光合成速度の測定
千葉県清澄山での野外調査
ソバの花を訪れる昆虫の採集
研究トピックス

花粉媒介昆虫を使ったテンナンショウ属の分類  松本 哲也 助教

サトイモ科テンナンショウ属は世界に約180種が知られており、うち53種が日本に分布します。ほとんどの日本産種間では遺伝的分化が非常に小さく、大陸から日本列島に入ってきて急速に多様化したと考えられています。その理由の一つに、種ごとに異なる昆虫を花粉媒介者として使い分けていることが指摘されています。自生地へ行くとテンナンショウ複数種がしばしば混生していますが、花の外見が互いによく似た種間でさえ、訪れる昆虫はハッキリ違うことにいつも新鮮な驚きを感じます。

テンナンショウ研究の大きな悩みのタネとして、種同定の難しさが挙げられます。生態が明瞭に違う種間であっても、外見にはわずかな違いしかなく、見分けるのは職人技かも知れません。そこで私が注目したのが、花に訪れる昆虫の種間差です。つまり「人間がテンナンショウをうまく区別できないなら虫に見分けさせれば良い」と思いついたわけです。以来、いろいろな種の組合せで訪花昆虫相に基づく識別を試みていますが、昆虫による同定はなかなか正確で、ひょっとすると人間よりよほど優秀な分類学者かも知れません。まだテンナンショウ属には分類の混乱している難題がいくつも残っています。昆虫の意見も酌みながら、整理を進めて行きたいと思います。

図1:異なる昆虫を使い分けるテンナンショウ5種
図2:テンナンショウの花を訪れたクロバネキノコバエ科の1種

城大学理学部生物科学コースが取り組む放射線生物学研究  田内 広 教授・中村 麻子 教授

放射線はDNA損傷を誘発する外的因子として有名です。通常ですと、放射線によって発生するDNA損傷に対して細胞は修復機構を利用して傷が残らないようにしているのですが、大量のDNA損傷を細胞が受け修復機構のキャパシティを超えてしまった場合にはDNA損傷は修復されず、発がんなどの原因となってしまいます。茨城大学理学部生物科学コースの田内広研究室と中村麻子研究室では、DNA損傷に着目したそれぞれの研究室独自の生物学的研究アプローチによって、放射線による生物影響を明確にする研究を行っています。

田内広研究室では、DNA損傷修復機構の制御メカニズムの詳細な解析を通して、生物がどのようにDNA損傷から身を守っているのかを解明しています。また、中村麻子研究室では、DNA損傷の可視化技術を用いて、放射線によって発生するDNA損傷の数、損傷修復の過程を評価するとともに修復後にどのような組織変化が起こることで発がんなどの疾患が生じるのかを研究しています。

DNA損傷の発生とその影響
ヒト染色体を導入したハムスター細胞(右上写真、赤色がヒト染色体)を用いた遺伝子変異の解析実験の様子