
理学部長
中 村 麻 子
人生において、最も避けるべきものは「無関心」だと私は考えています。
世の中は複雑で、すぐに答えの出ない問いに満ちています。その中で立ち止まり、「なぜそうなのか」と問い続ける姿勢こそが、人間を人間たらしめる力です。理学とは、まさにその問いを大切にし、万物の理(ことわり)を知ろうとする学問にほかなりません。
そのような理学部で学ぶ皆さんに、ぜひ身につけてほしい能力が二つあります。
一つ目は、物事を見る視野や視点の柔軟性です。
理学部では、原子やそれよりも小さな世界から、生命、地球、宇宙、さらには数学における無限の世界まで、実に幅広いスケールを扱います。その広がりは、「前だけ」を見ていては決して捉えきれません。ときには頭上を見上げ、ときには足元を見つめ直す。視点を自在に行き来する力は、理学の学びを通して少しずつ鍛えられていきます。
ただし、この力は講義を受けているだけで自然に身につくものではありません。どのテーマに興味を持ち、どこで疑問を抱き、何を深く考えるのか。自ら考え、選び取る姿勢があってこそ、学びは本当の意味を持ちます。用意されたカリキュラムをただ「こなす」のではなく、「使いこなす」という意識を持ってください。
二つ目は、取捨選択する力です。
現代社会には、情報、サービス、人間関係、時間、学びの手段、価値観など、選ばなければならないものがあふれています。当然、すべてを手に入れることはできません。だからこそ、何を拾い、何を手放すのかを自分自身で判断する経験が重要になります。忘れてはならないのは、取捨選択ができるのは「実際に拾った人間だけ」だということです。手に取らなかったものは、捨てることすらできません。
もし選んだものを途中で手放すことになったとしても、それは失敗ではありません。一度拾い、考え、手放した経験は、必ず次の選択を支える力になります。間違っていたと思えば、また拾えばよい。そのとき皆さんは、以前よりも確かな経験値を備えた存在になっているはずです。
茨城大学理学部は、数学、情報数理学、物理学、化学、生物科学、地球科学などの基礎理学を幅広く学びながら、段階的に専門性を高めていくカリキュラムを特色としています。講義に加え、演習・実験を重視した教育を通して、理論を理解し、自ら考え、検証する力を着実に養います。
また本学には、量子線科学や原子力科学といった、他大学にはない特色ある教育プログラムがあり、放射線の基礎から応用までを体系的に学ぶことができます。最先端の研究施設や地域の研究機関とも連携し、社会と結びついた理学を実感できる環境が整っています。基礎力と専門性を兼ね備え、多様な進路へと羽ばたく力を育む――それが茨城大学理学部です。
「何をしたらよいかわからない」という不安を感じる時もあるかもしれません。
しかし、そのような状態は、何者にでもなれる可能性に満ちた状態でもあります。無限の好奇心を大切にし、万物の声に耳を澄ませながら、自分自身の問いを育ててください。茨城大学理学部は、その挑戦を正面から受け止める場所です。
皆さんの理学部での時間が、問いに満ちた豊かな時間となることを心から願っています。